Fusionist
← Media に戻る
技術解説

技術解説 2026/07/31

ジャイロトロンとは——プラズマを1億度に温める「電子レンジの王様」と日本の強み

核融合の記事で「プラズマを1億度に加熱」と書くとき、その裏で働いている装置の代表がジャイロトロンだ。家庭の電子レンジと同じ「マイクロ波で温める」原理を、周波数で約100倍・出力で約1,000倍にスケールアップした真空管である。そしてこの装置は、日本が世界市場で確かな存在感を持つ数少ない核融合機器のひとつでもある。仕組みと、なぜ日本が強いのかを解説する。

原理:電子の回転にマイクロ波を「共鳴」させる

磁場に閉じ込められたプラズマ中の電子は、磁力線の周りをらせん状に回転している(サイクロトロン運動)。この回転の周波数とぴったり同じ周波数の電磁波を外から撃ち込むと、電子は波のエネルギーを共鳴的に吸収して加速し、衝突を通じてプラズマ全体が加熱される。これが電子サイクロトロン加熱(ECH)だ。必要な周波数は磁場の強さで決まり、ITER級の磁場ではおよそ170GHz——家庭用電子レンジ(2.45GHz)の約70倍にあたるミリ波帯になる。この帯域で1本あたりメガワット級の連続出力を出せる実用的な発生装置は、事実上ジャイロトロンしかない。

ジャイロトロン自体も磁場を使う。超電導マグネットの中で電子ビームをらせん運動させ、共振空胴でその回転エネルギーを電磁波として取り出す構造で、いわば「電子ビームで駆動する巨大な真空管」である。出てきたミリ波は金属鏡とダイヤモンド窓を通し、導波管で数十メートル先の炉まで運ばれる。

役割:着火のライター、そして炉の「リモコン」

ECHの用途は加熱だけではない。第一にプラズマの立ち上げ。放電開始時の「種火」づくりはECHの得意技だ。第二に局所制御。ミリ波は鏡の角度でビームの当て所を数cm単位で狙えるため、プラズマ内部に生じる不安定性(新古典テアリングモードなど)の芽を、その場所だけ狙い撃ちで電流を流して潰せる。巨大な炉の中を遠隔から外科手術のように操作できる唯一の手段であり、トカマクでもステラレータでも、そしてFRCや磁気ミラーのような新興方式でも採用が広がる。方式を問わず売れる「共通部品」である点が、ビジネスとしてのジャイロトロンの面白さだ。

日本の強み:ITERへ「日本製初号機」を据え付けた実績

ジャイロトロンの製造は、大電力真空管・超精密加工・人工ダイヤモンド窓・超電導マグネットという日本の得意分野の複合技で、世界の主要サプライヤーは実質数社しかない。日本勢の中核がキヤノン電子管デバイス(旧東芝電子管デバイス)だ。QST(量子科学技術研究開発機構)と共同でITER向け170GHzジャイロトロンを開発し、2025年8月には日本製初号機のITER現地据付が完了した。周辺にも、ジャイロトロンを駆動する補機電源を納める東京電子、ジャイロトロン用超電導マグネットを製作するJASTEC(神戸製鋼グループ)と、国内で一式が揃う供給網が育っている(日本のサプライチェーン)。

この技術を民間市場へ広げる旗振り役がKyoto Fusioneeringだ。ジャイロトロンを含む加熱システムを核融合スタートアップ各社へ提供する事業を展開し、「炉本体は作らず、どの炉にも要る機器を売る」戦略の柱に据える(徹底解説)。海外では仏ThalesがITER用6基を含む欧州域の主要サプライヤーで、日欧が市場を分け合う構図にある。

課題:効率・寿命・量産

技術的な主戦場は3つ。電気からミリ波への変換効率(現状50%前後、エネルギー回収で改善中)、連続運転時の寿命と信頼性、そして商用炉時代に向けた量産性だ。商用発電所は1基あたり数十本のジャイロトロンを必要とするとみられ、現在の「研究所向け一品受注」から「産業機器としての量産」への転換が、サプライヤー各社の次の勝負になる。周波数を上げて高磁場HTS炉に対応する開発(200GHz超級)も進んでおり、需要は方式の勝敗によらず伸びる公算が大きい。

視点:炉が何であれ、ライターは要る

核融合投資というとどうしても炉本体の企業に目が行くが、ジャイロトロンは「どの方式が勝っても必要とされる」数少ない機器であり、しかも日本に量産級の実績と人材が既にある。ITER据付完了という世界最高水準の実績を、商用炉市場での標準ポジションに変換できるか——日本の核融合産業戦略にとって、ジャイロトロンは最も守るべき橋頭堡のひとつである。

出典: QST・ITER機構発表(ITER向けジャイロトロン開発・2025年据付)、キヤノン電子管デバイス・Kyoto Fusioneering・Thales各社公表資料、F4E発表(2024年契約)、当データベース収録情報をもとに編集部作成。

X f