企業解説 2026/08/04
Realta Fusion(リアルタ・フュージョン)とは——捨てられた「磁気ミラー」で商用化を狙う
核融合スタートアップの多くはトカマクかステラレータ、あるいはレーザーを選ぶ。Realta Fusion が選んだのは磁気ミラー——1950年代に考案され、1980年代に米国が一度放棄した方式だ。なぜいま蒸し返すのか。答えは高温超伝導磁石にある。
3行でわかる Realta Fusion
- 2022年設立、米ウィスコンシン州マディソン。ウィスコンシン大学マディソン校(UW-Madison)発のスピンアウト
- 方式は軸対称磁気ミラー。REBCO(高温超伝導)磁石で高磁場化し、旧世代ミラーの弱点を克服しようとしている
- 最初の狙いは電力網ではなく産業用の熱。化学精製、金属リサイクル、遠隔地の鉱業、そしてデータセンター
磁気ミラーとは何か、なぜ一度捨てられたのか
磁気ミラーは、筒状のプラズマの両端を強い磁場で「栓」をして閉じ込める方式だ。トカマクのようにドーナツ状に回す必要がなく、構造が直線的で単純という大きな利点がある。1954年ごろに旧ソ連のブドカーと米国のポストがそれぞれ提案した、核融合でも最も古いアイデアの一つである。
ところが実際にやってみると、端から粒子が漏れ続けた。磁場の栓は完全ではなく、ある角度以上の速度を持った粒子は素通りしてしまう(損失円錐と呼ばれる)。これに不安定性が重なり、閉じ込め性能がトカマクに追いつかない。米国は巨大なミラー装置 MFTF-B を建設したものの、1986年、完成した装置を一度も本格運転しないまま計画を打ち切った。核融合史でも有数の苦い挿話である。
Realta の賭けは単純だ。当時なかった高温超伝導(HTS)磁石で、当時出せなかった磁場を出す。 磁場が強いほど栓は効き、閉じ込めは良くなる。加えて、E×Bシア回転による安定化やスロッシングイオンといった、40年間に蓄積した制御の知見を重ねる。
17テスラ——WHAM の記録
その実証機が WHAM(Wisconsin HTS Axisymmetric Mirror)だ。UW-Madison、MIT、そして Commonwealth Fusion Systems(CFS)による官民共同のプロジェクトで、磁石は CFS が REBCO テープで設計・製造した。
2024年7月18日、WHAM はプラズマに対して17テスラを印加し、「核融合プラズマ実験における史上最高の定常磁場」と発表された。第1回の実験キャンペーンでは磁石をフル磁場で78日間運転し、線平均密度で 1020 m-3 級、100 keV を超えるハードX線を数秒間観測している。
装置ロードマップ——WHAM → Anvil → Hammir
| 装置 | 位置づけ | 目標 |
|---|---|---|
| WHAM | 実証機(稼働中) | 高磁場ミラーの物理実証。17テスラ達成済み |
| Anvil | 次期装置 | ブレークイーブン級(Q ≈ 1)の単純ミラー。磁石は CFS が供給 |
| Hammir | 商用パイロット | D-T 運転で核融合出力 175 MW、Q > 5 を想定 |
Hammir の 175 MW/Q>5 という数字は、同社の主任科学者 Cary Forest が IAEA 会議に提出した技術要旨に記載されたもので、プレスリリースで確認できる公式目標というより、学会レベルで示された設計目標と受け取るのが正確だ。装置名についても、2023年の設立時には「BEAM」、UW-Madison 側の学術資料では「BEAT」という呼称が使われており、名称と定義は時期によって揺れている。
製品側のブランド名は CoSMo(Compact, Scalable, Modular)。50〜500 MW の出力レンジを想定している。
「直接発電に世界初成功」——と、その留保
2026年6月、Realta は WHAM に直接エネルギー変換(DEC)装置を取り付け、プラズマから電力を取り出して電球を点灯させたと発表した。「民間核融合企業として世界初」という表現で報じられ、日本語メディアも複数がこれを取り上げた。
ただし、この発表には専門メディアによる重要な訂正が付いている。 米国原子力学会(ANS)の追加取材に対し、同社の主任科学者 Derek Sutherland は次の点を明確にした。
- これはネット発電(投入より多い電力を得ること)の実証ではない
- 取り出したのは数百ワット規模で、その大半はプラズマ維持に投入していた電力の回収分
- WHAM はまだ D-T 運転をしておらず、核融合反応で生じたアルファ粒子に由来するエネルギーではない
- 変換効率のデータは未発表で、今後測定する
直接エネルギー変換は、熱を経由せずに荷電粒子の運動エネルギーを直接電気に変える技術で、ミラー方式は端から粒子が出ていく構造上これと相性がよい——という理屈自体は真っ当だ。だが「世界初の核融合発電」と読むと実態を大きく取り違える。この種の発表を読むときは、企業の宣伝文句と、専門メディアが加えた技術的な留保を必ず両方見るのが安全だ。
資金調達
| 時期 | ラウンド | 金額 | 主な投資家 |
|---|---|---|---|
| 2023年5月 | シード | 900万ドル | Khosla Ventures(リード)、WARF |
| 2023年5月 | DOE 助成 | 300万ドル | 米エネルギー省 Milestone-Based Fusion Development Program |
| 2025年5月 | シリーズA | 3,600万ドル | Future Ventures(リード)、Mayfield、Khosla Ventures ほか |
| 2026年2月 | デット | 950万ドル | Silicon Valley Bank |
これに WHAM 建設のための ARPA-E 助成(2020年、1,000万ドル超と説明されている)が加わる。開示ベースの単純合計でおよそ6,800万ドル前後だが、同社が「累計調達額」として公表した単一の数字は確認できていない。CFS の約30億ドルと比べれば、資金規模は2桁小さい。
2026年の3つの動き
① CFS との長期提携(4月)。 Anvil と Hammir の磁石を CFS が設計・製造する。契約規模は「数十億ドル規模になりうる」とされるが具体額は非開示。CFS 側から見れば、自社のトカマク SPARC が完成する前に磁石を外販して収益を立てる戦略の一環であり、Realta にとっては世界最先端の HTS 磁石を自前開発せずに調達できる。
② 京都フュージョニアリングとの提携(3月)。 日本の読者にとってはここが一番重要だろう。京都フュージョニアリングが Realta のミラー装置向けにプラズマ加熱システム(ジャイロトロン)を設計・製造する。Realta はすでにジャイロトロンを購入済みで、最初の商用グレード機に搭載する予定だという。両社はさらに、材料照射試験やトリチウム増殖ブランケット開発に使うミラー型中性子源の共同検討も表明している。発表はインド太平洋エネルギー安全保障フォーラムの場で行われ、同日には X-energy と IHI の提携も発表された。日米の核融合サプライチェーン連携という文脈に位置づけられている。
③ 旧オスカー・マイヤー工場跡地への本社建設(7月)。 マディソンのホットドッグ工場跡に本社と R&D 施設を建てる。州・市の優遇措置が最大5,500万ドル、同社の施設投資が6,700万ドル、設備投資は5億ドル超。現在の従業員は約50名だが、600名超の雇用を計画している。
どう評価すべきか
強みは3つある。第一に、直線構造ゆえのスケーリングの良さ——出力を上げたければ中央部を延長すればよく、追加するのは端部の高性能磁石より安価な低磁場磁石で足りる。第二に、CFS という最強の磁石サプライヤーを確保したこと。第三に、産業用熱という電力網より参入しやすい最初の市場を選んでいることだ。
一方で率直に見るべき点もある。磁気ミラーが放棄された物理的な理由は、高磁場だけで自動的に消えるわけではない。損失円錐の問題に対しては 2025年に UW-Madison の研究者が世界初の3次元シミュレーションを実施するなど研究は進んでいるが、ブレークイーブン級の Anvil はまだ設計段階だ。商用化目標も報道によって「2028年」「2030年代前半」「2030年代半ば」と幅があり、確定した日程とは言えない。
それでも、CFS が磁石を供給し、京都フュージョニアリングがジャイロトロンを供給するという構図は示唆的だ。核融合が「一社で全部つくる」段階から「サプライチェーンで分業する」段階に移りつつあることの、わかりやすい実例になっている。
関連する日本企業
現時点で確認できる日本との接点は、京都フュージョニアリングによるジャイロトロン供給である。日本の投資家からの直接出資は確認できていない。核融合サプライチェーンに関与する企業は企業レジストリに2,349社を収録している。
出典: Realta Fusion および Commonwealth Fusion Systems のプレスリリース(2024年7月18日、2025年5月13日、2026年4月2日)/Silicon Valley Bank 公表資料(2026年2月17日)/American Nuclear Society(2024年7月25日、2026年7月6日)/TechCrunch(2023年5月31日、2026年4月2日、2026年6月30日、2026年7月15日)/Axios(2026年3月16日、京都フュージョニアリングとの提携)/Wisconsin Public Radio(2026年7月15日)/IAEA 会議提出資料(C. Forest)/realtafusion.com、uwpsl.wisc.edu。Hammir の性能目標は学会要旨にもとづく設計目標であり、公式なコミットメントではありません。数値・時期はいずれも公表時点のもので、最新の状況とは異なる場合があります。
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