Research 2026/07/30
中国核融合スタートアップの全景2026——国家・第1世代・第2世代、三層で進む「砸钱時代」
中国メディアはいま、核融合を「密集砸钱時代(集中的にカネを投じる時代)」と呼ぶ。国家がEAST・BESTを軸に商業化プラットフォームを立ち上げる一方、民間ではユニコーンが生まれ、2025年には設立1年足らずで10億元超を集める「第2世代」スタートアップが相次いで誕生した。当データベースに収録する中国企業50社(プロファイル30+レジストリ20)をもとに、三層構造で全景を整理する。
第1層:国家プラットフォーム——150億元の国有企業とBEST
頂点にあるのは2025年7月、中国核工業集団(CNNC)主導で上海に設立された中国聚変能源だ。登録資本150億元(約21億ドル)でトカマク路線の商業化を国家規模で担う。合肥では中国科学院系のNeo Fusion(聚変新能)が次期実験炉BESTの建設を進め、NIO(蔚来汽車)や地方国資も出資する官民混成で登録資本は累計約20億ドル。2026年7月には合肥で長さ21m・582トンのトロイダル磁場コイルが全パラメータ試験を完了し、ハードの進捗も可視化された。さらにCNNCを盟主に国家電網・中国宝武・ハルビン電気ら国有大手24社が参画する「可控核聚変創新聯合体」が組成され、重工・素材・電力の総動員体制が敷かれている(レジストリに収録)。
第2層:第1世代民間——記録を出し始めたユニコーンたち
民間の先頭集団は3社。上海のEnergy Singularity(能量奇点)は世界初の全HTSトカマクHH70を短期間で稼働させ、2026年6月には無液ヘリウム絶縁型HTS磁石で中心磁場26.7テスラの世界記録を発表した。清華大学系・西安のStartorus Fusion(星環聚能)は磁気リコネクション加熱の球状トカマクで2028年実証炉を掲げ、2026年5月のA+ラウンド(5億元)で評価額10億ドル超のユニコーンになったと報じられる。そして民間エネルギー大手・新奥集団のENN Fusionは球状トーラスEXL-50Uで中性子を出さないp-¹¹B燃料を追求し、2026年7月に評価額106億元で初の外部調達を完了した(徹底解説)。方式も資本構成もばらけており、米国のCFS・Helion・TAEに相当する「看板企業」の層がすでに形成されている。
第3層:第2世代——2025年設立ラッシュ、テック資本が参戦
2025年から2026年にかけて、新設スタートアップへの大型エンジェル投資が連鎖した。当DBの収録分だけでも:
諾瓦聚変(Nova Fusion)——2025年4月上海設立。Energy Singularity共同創業者の郭後揚氏が興し、アリババや美団龍珠などから設立1年で累計12億元と、中国民営核融合で最大級のエンジェル調達を記録。東昇聚変(Dongsheng Fusion)——2025年7月、復旦大学系で上海設立。中国で唯一D-³He無中性子路線を採り、紅杉中国・IDG・高瓴が出資、2026年6月には1億ドルを追加した。星能玄光(Xeonova)——中国科学技術大学のFRC装置KMAXを率いた孫玄教授が合肥で創業し、螞蟻集団(アント)などからAラウンド計5億元。初号機Xeonova-1の放電に成功済み。岩超聚変(Yanchao Juneng)——2025年3月上海設立のステラレータ企業で、短期は超電導応用で稼ぐ「1+N」戦略。瀚海聚能(HanHai JuNeng)——成都の直線型FRC企業で、2025年7月に初号機HHMAX-901がファーストプラズマを達成。安東聚変(Antom Fusion)——北京のZピンチ商業化企業で、3年以内のQ>1を掲げる。
目を引くのは出資者の顔ぶれだ。アリババ・アント・美団といったテック資本と、紅杉・IDG・高瓴というトップVCが、地方政府系資金と同じテーブルに座っている。米国でOpenAIのアルトマン氏らがHelionに賭けた構図の中国版が、2年遅れで、しかもより厚い層で再現されつつある。
異色枠:江西の核融合-核分裂ハイブリッド「星火一号」
もう一つの中国的な動きが、江西省が推進する世界初の商用ハイブリッド炉星火一号だ。核融合出力40MW超・総出力300MWの核融合-核分裂ハイブリッドを2029年末に完成させ、2030年の実証発電を目標とする。中核磁石は上場企業聯創光電系の聯創超導が担う。純粋核融合より早く「核融合技術で発電した」実績を取りにいく設計で、実現すればマイルストーンの定義そのものを揺さぶる存在になる。
供給網:BEST発注ラッシュで「受注実績のある上場企業」が急増
2025年12月、聚変新能によるBEST関連調達が集中し、中国の上場企業に核融合の実受注が一気に広がった。真空容器セクターを2.09億元で落札した合鍛智能を筆頭に、磁石電源蓄電システムの王子新材(7,980万元)、電力ケーブルの起帆電纜、低温分配弁箱の杭氧股份(1,898万元)、遮蔽ブロックの東方精工(持分会社経由・4,918万元)などが続く。ITER納入実績組(西部超導の超電導線材、安泰科技のタングステン材、東方電気・国光電気の炉内機器)、HH70主機を製造した上海電気と合わせ、当DBでは中国の供給網・サービス企業だけで20社超を収録している(供給網フィルタで一覧可)。「装置が発注を生み、発注が上場企業を核融合銘柄に変える」——A株市場で核融合テーマが過熱する背景はこの実需にある。
視点:速度は資本の構造から生まれている
米国の核融合はVCと民間契約(PPA)が引っ張り、政府支援は細い。中国は逆で、国家プラットフォーム・地方政府・国有重工・テック資本・トップVCが同時に張る多層構造だ。この構造は個社の生存確率を高めるだけでなく、BESTのような国家装置の発注が民間供給網を育て、その供給網が第2世代スタートアップのコストを下げるという循環をつくる。日本から見るべきは個々の企業よりこの循環である。J-Fusionの123社や3.1兆円の官民投資計画(日本の調達アップデート)が同じ循環を回せるか——比較の物差しとして、中国の三層構造は最良の教材だ。
出典: 当データベース収録の各社情報(一次発表・中国科創板/上海・深圳取引所開示・報道に基づく、2026年7月30日時点)、新華社・日経(582トン磁石、2026/7/29)、21経済網「中国商业核聚变进入密集砸钱时代」(2026/4)、投中網(2025/10)ほかをもとに編集部作成。調達額・評価額は報道値を含む概算です。