企業解説 2026/08/27
Focused Energy——2.4億ドル、業界最大級のシリーズA。ドイツが国を挙げて賭けたレーザー核融合
2026年5月、Focused Energy が2億4,000万ドルのシリーズAを完了した。核融合業界で史上最大級のシリーズAである。出資したのはドイツの電力大手 RWE。そして2か月後、ドイツ政府は旧ビブリス原発の跡地を国家レーザー核融合ハブに指定した。この会社を見ることは、いまドイツが何に賭けているかを見ることでもある。
3行でわかる Focused Energy
- 2021年設立。ダルムシュタット工科大の Markus Roth 教授とテキサス大の Todd Ditmire 教授らが創業した独米二拠点企業
- 方式はレーザー慣性核融合。ただし NIF と違う「直接駆動」を採り、将来的には「陽子高速点火」を目指す
- 米エネルギー省のマイルストーン制度で、慣性核融合方式として選ばれたわずか2社のうちの1社
NIFと何が違うのか——直接駆動という選択
2022年に人類初の点火を達成した米国の NIF は、間接駆動という方式を使う。金製の「ホーラム」という小さな筒に燃料ペレットを入れ、レーザーは筒の内壁に当てる。内壁が加熱されてX線を出し、そのX線がペレットを圧縮する。レーザー→X線→圧縮、という二段階だ。
Focused Energy が採るのは直接駆動。ホーラムを使わず、レーザーを燃料ペレットに直接当てる。
同社の主張する利点(いずれも企業側の説明)
・ホーラムでの変換損失がないため、必要なレーザーエネルギーがホーラム方式の約25%で済む
・同じ装置に4倍のD-T燃料を搭載できる
・燃料の燃焼率が、ホーラム方式の7%に対し直接駆動では約28%
ただし直接駆動には昔から知られた弱点がある。レーザーを直接当てるぶん照射の対称性を保つのが難しく、流体不安定性が出やすい。この弱点をどう克服するかが、この方式の勝負どころだ。
本命は「陽子高速点火」——ただし説明が揺れている
同社の学会向けロードマップ資料では、本命の方式は陽子高速点火(Proton Fast Ignition)とされている。直接駆動で燃料を高密度に圧縮したあと、別系統のレーザーで作った陽子ビームを撃ち込んで一気に点火する——圧縮と点火を分業させる考え方だ。中心点火より対称性の乱れに強い、というのが利点の主張である。
ところが2024年11月のCEOインタビューでは、「NIFの成果を再現する中心点火方式を採用している。最も科学的に実証されたアプローチだから」と説明されており、高速点火に言及していない。
対外説明が2つ併存している。おそらく「当面は実証済みの中心点火で進め、将来的に高速点火へ」という二段構えなのだろうが、記事や資料を読むときはそれがいつ書かれたものかを確認したほうがいい。
燃料は D-T。「Pearl」と名付けた直径約4mmのカプセルを量産設計している。
資金——民間と国家が同時に入っている
| 時期 | 内容 | 金額 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 2021年9月 | シード | 1,500万ドル | — |
| 2023年6月 | シリーズA(累計8,200万ドル) | 追加1,100万ドル | Prime Movers Lab ほか |
| 2025年10月 | 初回出資 | 非開示 | RWE(独電力大手) |
| 2025年12月 | 州助成金 | 2,000万ユーロ | ヘッセン州 |
| 2026年5月 | シリーズA(本ラウンド) | 2億4,000万ドル | RWE(追加6,000万ユーロ)、SPRIND、EIC Fund、Prime Movers Lab ほか |
累計額は情報源によって「約4億1,000万ドル」「民間3億ドル+政府助成2億ドル」など幅があり、単一の数字では書けない。おおむね4億〜5億ドル規模、と捉えるのが安全だ。
注目すべきはRWEである。ドイツ最大級の電力会社が、核融合スタートアップに二度出資している。電力を売る側が核融合に金を出しているという事実は、この分野の成熟度を測るうえで意味がある。
ドイツの国家プロジェクトとしての位置づけ
ここが日本の読者にとって一番見落とされている点だと思う。ドイツは核融合に国として本気で張っている。
- 2025年10月——連邦政府が行動計画を閣議決定。2029年までに20億ユーロ超を投じる(研究助成に最大8億5,500万ユーロ、インフラ・実証炉建設に最大7億5,500万ユーロ)
- 2025年10月末——バイエルン、ハンブルク、ヘッセンなど6州が「核融合研究アライアンス」を結成
- 2026年7月30日——連邦研究・技術・宇宙省が国内3拠点の「核融合ハブ」を発表。レーザー核融合を担う VEGA ハブを Focused Energy と Marvel Fusion が共同主導。設置場所は旧ビブリス原発の跡地。初期配分1億2,500万ユーロ
脱原発を完遂した国が、その原発の跡地に核融合の拠点を置く。象徴的な絵だ。連邦研究相は「世界初の核融合発電所はドイツに」と発言している。同社自身も、今後2年で2億ユーロ、2030年までに総額約5億ユーロの投資を計画すると表明した。
提携
- 米エネルギー省 マイルストーン制度——2023年に採択された8社のうち、慣性核融合方式は Focused Energy と Xcimer Energy の2社だけ。2024年11月に最初のマイルストーンを達成
- Amplitude(仏レーザー企業)——2024年12月、4,000万ドル規模の契約。キロジュール級で60秒に1発撃てる超高速レーザーを開発し、ベイエリアの6,500万ドル規模の施設に設置する
- ロチェスター大学レーザーエネルギー研究所(LLE)——2026年3月、690万ドルの複数年契約。レーザー・プラズマ不安定性を研究し、結果を発電所の設計モデルに反映する
- 人材——NIF点火キャンペーンの共同リーダーだった Debbie Callahan 博士(LLNL在籍35年)が2024年12月に CSO として参画
この会社をどう見るか
レーザー核融合の民間勢の中で、「点火を実際にやった人たち」に最も近い会社である。NIFの点火キャンペーンを率いた研究者が移籍し、直接駆動という方式もNIFの延長線上で議論できる。ドイツ政府とRWEという国家・産業の後ろ盾もある。
懸念があるとすれば規模だ。自社は「160名超」と発表しているが、第三者データベースは「約31名」と推計しており、従業員数の実態が把握できない。また CEO が2024年に交代したという報道があり、2026年時点の公式サイトでは創業者の名前に戻っているように見えるが、経緯が確認できなかった。急拡大している組織の内側は、外からは見えにくい。
日本との関係
日本企業との直接的な資本提携・技術提携は確認できなかった。ただし混同に注意が要る点がある——浜松ホトニクスが2025年に連続照射実験の成果を発表しているが、あれはEX-Fusion(日本のレーザー核融合スタートアップ)との共同であって、Focused Energy とは無関係である。
日本語では、2026年6月のシリーズAを報じた記事などが存在する。
出典: Focused Energy 公式サイト・プレスリリース(focused-energy.co、2026年5月27日 シリーズA、2026年7月31日 ビブリス拠点、2024年11月14日 DOEマイルストーン達成、2024年12月17日 Amplitudeとの契約)/RWE プレスリリース(2026年5月27日)/TechCrunch(2026年6月2日)/World Nuclear News(2026年7月30日 独核融合ハブ)/ロチェスター大学LLE(2026年3月19日)/ヘッセン州助成(2025年12月23日)/米国原子力学会 Nuclear Newswire/JETRO(2025年11月 独6州アライアンス)。累計調達額は情報源により差があるため本文では幅で示しています。従業員数および CEO 交代の経緯は出典間で一致せず、未確認である旨を本文に明記しています。
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