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企業解説

企業解説 2026/07/03

Inertia 徹底解説——NIF点火チームが挑むレーザー核融合の新星

2024年設立の米国スタートアップInertia Enterprisesが、2026年2月にシリーズAで4.5億ドルを調達したと発表し、業界の注目を集めている。米エネルギー省の国立点火施設(NIF)で史上初の核融合点火を成功させた科学者と、Twilioの共同創業者が手を組んだ布陣が特徴だ。同社が掲げる巨大レーザー計画「Thunderwall」と商用化への道筋を整理する。

会社概要と創業チーム

Inertia Enterprisesは2024年に設立された米国の核融合スタートアップである。創業メンバーは3人。クラウド通信大手Twilioの共同創業者であるJeff Lawson氏が最高経営責任者を務め、米ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)のNIFで2022年12月の核融合点火実験を率いた科学者Annie Kritcher氏が最高科学責任者に、スタンフォード大学の光科学教授でSLAC国立加速器研究所の副所長も務めるMike Dunne氏が最高技術責任者に就いた。報道によれば、Kritcher氏の講演にLawson氏が声をかけたことが創業のきっかけだったという。

技術方式——レーザー慣性・NIF方式との関係

Inertiaが採用するのは、NIFで実証された「レーザー慣性閉じ込め核融合」の延長線上にある方式である。NIFは192本のレーザーを一点のターゲットに照射し、2022年12月に投入エネルギーを上回る核融合エネルギーを生み出す「点火」を世界で初めて達成した。Inertiaはこの物理そのものを再現しつつ、老朽化した大型ネオジムガラスレーザーではなく、半導体レーザーダイオードを用いた小型・高効率のレーザー群に置き換えることを目指す。公表資料では、NIFに比べ出力効率が20倍、施設の設置面積は10分の1になるとされる。

資金調達と投資家

Inertiaは2026年2月、シリーズAで4.5億ドルの資金調達を発表した。Bessemer Venture Partnersが主導し、Alphabet傘下のGV(Google Ventures)、Modern Capital、Threshold Venturesなどが参加した。LLNLとの提携により約200件の特許へのアクセスも得ているという。Kritcher氏はLLNLの職員としての立場を維持しつつInertiaにも関わっており、これは2022年制定のCHIPS・科学法に基づく枠組みで認められている、と報じられている。

Thunderwall計画と商用化ロードマップ

同社が「世界初のグリッドスケール核融合レーザービームライン」と呼ぶのが「Thunderwall」だ。報道では、同種のレーザーとして過去最高となる平均出力(従来比50倍)を目指すとされる。公式サイトによれば、最終的には1000本規模のレーザービームラインを組み合わせ、1発10キロジュール級のパルスを毎秒10回照射する構成を想定し、直径4.5ミリの燃料ターゲットを1個1ドル未満で量産する体制を目指すという。CTOのDunne氏は、まず50メガワット級のプロトタイプで性能と発電効率を検証したうえで、1000本のレーザービームラインを備えた1ギガワット級の商用プラントに進む計画だと説明している。同社は2030年にパイロットプラントの建設に着手する意向を示しているが、稼働開始時期などの詳細は公表されていない。

競合との比較——Xcimer・Focused Energy・Longviewなどレーザー勢

レーザー慣性核融合を追う企業はInertiaだけではない。Xcimer Energyはクリプトンフッ素エキシマレーザーを用いる方式で、2030年に12メガジュール級の「Vulcan」施設を完成させ、2031年にエンジニアリング・ブレークイーブンの達成を目指すとされる。Focused EnergyとXcimerは米エネルギー省の「マイルストーン方式フュージョン開発プログラム」に採択された8社のうち、慣性閉じ込め方式を採る2社である。Longview Fusion Energy Systemsは、LLNLとSLACが主導する「STARFIRE」フュージョンハブの一員として、レーザー核融合の商用化を目指している。なお、磁化ターゲット方式のHelion Energyのように既にMicrosoftとの電力購入契約を結ぶ企業もあるが、Dunne氏は「Inertiaは新たな物理を探索する必要がなく、米政府がすでに実証した物理をスケールする点が強みだ」と述べているという。

課題と展望

Inertiaの前には大きな課題が横たわる。現在1個あたり10万〜20万ドルとされる燃料ターゲットの価格を1ドル未満まで引き下げる必要があり、また商用炉の要求である毎秒10発の連続照射に耐える半導体レーザーダイオードの量産体制も確立されていない。CTOのDunne氏は、性能検証だけで1年程度を要するとの見通しを示している。同社はApple出身者やWaymo出身者を採用し、量産技術とサプライチェーン構築のノウハウを取り込もうとしているとされる。パイロットプラントの着工目標である2030年、そして商用プラント稼働の時期は現時点で確定していない。「〜とされる」という報道の域を出ない部分も多く、今後の実証データの公表が注目される。

出典: TechCrunch、Bloomberg、SiliconANGLE、GlobeNewswire、optics.org、Latitude Media、American Nuclear Society(Nuclear Newswire)、Laser Focus World、Nuclear Engineering International、Xcimer Energy公式サイト、Inertia Enterprises公式サイト(inertia.com)をもとに編集部作成。

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