企業解説 2026/08/27
HyperJet Fusion——36門のプラズマ砲と、いまの居場所がわからない会社
トカマクは超伝導磁石を使う。レーザー核融合は192本のレーザーを使う。どちらも高い。ではプラズマそのものを弾丸として撃ち込んだらどうか——それが HyperJet Fusion の発想だ。技術は実在し、論文も出ている。だが会社がいま生きているのかどうかが、公開情報からは確定できない。その両方を書く。
3行でわかる HyperJet Fusion
- 2017年設立、米バージニア州シャンティリー。前身 HyperV Technologies の設備・知財・人員をそのまま引き継いだ
- 方式は PJMIF(プラズマジェット磁化慣性核融合)。ロスアラモス国立研究所の PLX 実験で、36門のプラズマ砲を使う
- 資金はほぼ全額が公的助成。確認できる民間資金は2017年のシード200万ドルだけ
36門で球を作る——PJMIFとは何か
やっていることは、言葉にすると単純だ。
球状に配置した36門の同軸プラズマ砲から、超音速のプラズマを中心に向けて一斉に撃つ。ジェットは中心手前でぶつかり合って合体し、内側に落ちていくプラズマの殻——これをプラズマライナーと呼ぶ——になる。その殻が、中心に置いた磁化した燃料を押しつぶす。
用語の整理
ライナーとは、燃料を包んで圧縮する「皮」のこと。レーザー核融合では固体のカプセル、General Fusion では液体金属が担う。PJMIF はそれをプラズマでやる。
磁化ターゲットとは、あらかじめ磁場をかけておいた燃料のこと。磁場が熱の逃げ道を塞ぐので、より緩い圧縮でも核融合条件に届く——というのが磁化標的核融合(MTF)に共通する発想だ。
なぜこの方式なのか
同社と LANL の主張はこうだ。
- 高い部品が要らない。超伝導磁石もメガジュール級レーザーも使わない。「研究開発費と炉のコストを従来方式比で最大2桁下げられる」と主張している
- ドライバーが遠い。プラズマ砲は反応点から離れて置ける。中性子や爆風で壊れにくく、約1Hzでの繰り返し運転を想定できる。部品交換もしやすい
- 中が見える。球殻の隙間から計測機器を差し込めるので、内部の診断がしやすい
ただしこれらは主張であって、トカマクやレーザーとの優劣を定量的に裏づけた第三者の査読データは見つからなかった。コスト2桁減という数字は、炉が存在しない段階での設計上の見積もりである。
実験はどこまで来たか
実験装置は PLX(Plasma Liner Experiment)。ロスアラモス国立研究所にあり、HyperJet がプラズマ砲を設計・製造して供給し、LANL の研究者と共同で運転している。ニューメキシコ大学、アラバマ大学ハンツビル校も参加している。
2024年1月に出た論文(arXiv 2401.11066、のちに Physics of Plasmas 掲載)で報告された到達点はこうだ。
| 項目 | 実測値 |
|---|---|
| プラズマ砲の数 | 36門(2019年時点では18門だった) |
| ジェット速度 | 50 ± 10 km/s |
| ピーク密度 | おおむね 1017 cm-3 オーダー |
| 合体の挙動 | ジェット同士がすり抜ける状態から準衝突的な状態へ遷移。衝撃波構造は最小限で、十分に滑らかな球殻が形成できたと報告 |
ひとつ注意がある。初期の構想論文には「約125 km/s」という数字が出てくるが、これは将来炉での想定速度であって、実験の実測値ではない。実測は50 km/s前後だ。この2つを混同した紹介を時々見かける。
2024年11月の米国物理学会(APS)DPP年会でも「PLX-BETHE」として続報が発表され、その共著者に HyperJet 所属の2名が入っている。少なくとも2024年後半までは、会社として実験に関与していた。
資金——ほぼ全部が税金である
| 時期 | 種別 | 金額 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 2015年 | ARPA-E ALPHA | 663万ドル | 米エネルギー省(LANL経由) |
| 2017年 | シード(民間) | 200万ドル | Strong Atomics |
| 2018年 | DOE FES / SBIR | 15万ドル | 米エネルギー省 |
| 2019年 | DOE INFUSE | 非公表 | 米エネルギー省 |
| 2020年 | ARPA-E SBIR Phase I | 25万ドル | 米エネルギー省 |
| 2020年 | ARPA-E BETHE | 462万ドル | 米エネルギー省(LANL経由) |
累計額は資料によって約1,300万ドルとも約2,800万ドルとも書かれていて一致しないので、ここでは合計を出さない。確かなのは構造のほうだ——確認できる民間資金は2017年の200万ドル、それ1件きりである。2021年時点で2,000万ドルの調達を模索しているという記述があったが、その後成立したかは確認できなかった。
Commonwealth Fusion Systems が約30億ドル、Helion が約15億ドルを民間から集めている隣で、この会社はほぼ国の研究予算で走っている。ベンチャーというより、国立研究所のプロジェクトに技術を提供する小さな会社、と見たほうが実態に近い。
で、この会社はいま生きているのか
ここが本題だ。調べたが、確定できなかった。矛盾する証拠が並んでいる。
存続を示すもの
- 公式サイトは2026年8月時点でアクセスできる
- 2024年11月のAPS年会発表に、HyperJet所属者が共著者として入っている
- D&B系のデータベースは「運営中」と記載
疑問を投げかけるもの
- 公式サイトにニュース欄もプレスリリースもなく、日付のわかる更新が見当たらない
- Crunchbase は「Closed(閉鎖)」「NearStar Fusion に買収された」と記載
- 2025年9月、LANL が PLX の「商業化パートナー」を公募開始した(提案締切10月4日)。この文書に HyperJet への名指しの言及はない
- 創業者の Witherspoon 氏は2021年に姉妹企業 NearStar Fusion を共同設立し、近年の発信はそちらに集中している。NearStar のニュースページに HyperJet への言及は一度も出てこない
ただし企業データベースの記載は、そのまま信じられない。PitchBook は「2020年12月に NearStar Fusion が買収」「設立2004年」と書いているが、NearStar 自身の設立が2021年なので、2020年に買収するのは時間的に不可能だ。自動生成データの精度の問題と考えるのが自然で、Crunchbase の「閉鎖」記載も同種の可能性がある。
LANL のパートナー公募も、解釈が割れる。既存パートナーが抜けたから探しているのかもしれないし、国立研究所の技術移転制度上、定期的に公募をかけているだけかもしれない。どちらとも断定できない。
結論としてはこう書くしかない。技術と実験は実在し、成果も査読論文になっている。会社としての独立した活動は、2025年以降の一次情報が見つからない。「潰れた」と書くのは根拠が足りず、「順調」と書くのも同じくらい根拠が足りない。
磁化標的核融合の中での位置づけ
| 企業・装置 | 圧縮するもの(ライナー) | 駆動方式 |
|---|---|---|
| HyperJet / PLX | プラズマの殻 | 36門のプラズマ砲 |
| General Fusion | 液体金属の渦 | 機械式ピストン |
| NearStar Fusion | (圧縮せず高速の飛翔体を衝突させる) | 電磁レールガン |
| Fuse Energy | 金属ライナー | パルスパワー(電磁駆動) |
同じ「磁化標的核融合」でも、燃料の潰し方がまるで違う。HyperJet の独自性は「多数の独立したジェットを合体させて殻を作る」という一点にある。逆に言えば、36本のジェットを揃って中心に届かせるという難しさも、この方式に固有のものだ。
興味深いのは NearStar だ。同じ創業者が、圧縮方式をプラズマジェットからレールガンによる衝突へまるごと変えて新会社を作っている。技術的な後継というより、同じ人脈から生まれた別コンセプトと見るのが正確だろう。
この記事の書き方について
核融合スタートアップを追っていると、こういう会社に時々ぶつかる。技術は本物で、国立研究所と組んでいて、査読論文も出ている。それでも会社としては見えなくなっていく。公的助成が主な資金源だと、プログラムが終われば静かになるのは自然なことでもある。
企業データベースの「閉鎖」表示を鵜呑みにして「撤退した」と書くのは簡単だが、その情報自体が時系列すら合っていないことがある。逆に公式サイトが生きているからといって活動中とも限らない。当データベースで企業を収録するときに出典を必ず付けているのは、こういう場面で「何をもってそう言えるのか」を後から検証できるようにするためだ。
HyperJet Fusion については、2024年後半までの技術活動は確認でき、2025年以降は確認できない——いまはそこまでしか言えない。
出典: HyperJet Fusion 公式サイト(hyperjetfusion.com・2026年8月27日確認)/ARPA-E プロジェクトページ「Plasma Guns for Magnetized Fuel Targets for PJMIF」/ロスアラモス国立研究所 Plasma Liner Experiment (PLX) 公式ページ/arXiv:2401.11066「Formation and Study of a Spherical Plasma Liner for PJMIF」(2024年1月20日、のち Physics of Plasmas 掲載)/APS DPP 2024 発表「PLX-BETHE: Target Formation and Integrated Experiments for PJMIF」(2024年11月)/Los Alamos Reporter「LANL Seeks Commercialization Partners For Plasma Liner Experiment」(2025年9月20日)/Open Access Government(2019年10月9日)/SBIR.gov、Fusion Energy Base、Crunchbase、PitchBook、CB Insights。累計調達額・ジェット速度・企業の存続状況は出典により記載が食い違っており、本文中にその旨を明記しています。日本企業・研究機関との接点および日本語の独自報道は、確認できませんでした。
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