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企業解説 2026/08/27

HyperJet Fusion——36門のプラズマ砲と、いまの居場所がわからない会社

トカマクは超伝導磁石を使う。レーザー核融合は192本のレーザーを使う。どちらも高い。ではプラズマそのものを弾丸として撃ち込んだらどうか——それが HyperJet Fusion の発想だ。技術は実在し、論文も出ている。だが会社がいま生きているのかどうかが、公開情報からは確定できない。その両方を書く。

3行でわかる HyperJet Fusion

36門で球を作る——PJMIFとは何か

やっていることは、言葉にすると単純だ。

球状に配置した36門の同軸プラズマ砲から、超音速のプラズマを中心に向けて一斉に撃つ。ジェットは中心手前でぶつかり合って合体し、内側に落ちていくプラズマの殻——これをプラズマライナーと呼ぶ——になる。その殻が、中心に置いた磁化した燃料を押しつぶす。

用語の整理
ライナーとは、燃料を包んで圧縮する「皮」のこと。レーザー核融合では固体のカプセル、General Fusion では液体金属が担う。PJMIF はそれをプラズマでやる。
磁化ターゲットとは、あらかじめ磁場をかけておいた燃料のこと。磁場が熱の逃げ道を塞ぐので、より緩い圧縮でも核融合条件に届く——というのが磁化標的核融合(MTF)に共通する発想だ。

なぜこの方式なのか

同社と LANL の主張はこうだ。

ただしこれらは主張であって、トカマクやレーザーとの優劣を定量的に裏づけた第三者の査読データは見つからなかった。コスト2桁減という数字は、炉が存在しない段階での設計上の見積もりである。

実験はどこまで来たか

実験装置は PLX(Plasma Liner Experiment)。ロスアラモス国立研究所にあり、HyperJet がプラズマ砲を設計・製造して供給し、LANL の研究者と共同で運転している。ニューメキシコ大学、アラバマ大学ハンツビル校も参加している。

2024年1月に出た論文(arXiv 2401.11066、のちに Physics of Plasmas 掲載)で報告された到達点はこうだ。

項目実測値
プラズマ砲の数36門(2019年時点では18門だった)
ジェット速度50 ± 10 km/s
ピーク密度おおむね 1017 cm-3 オーダー
合体の挙動ジェット同士がすり抜ける状態から準衝突的な状態へ遷移。衝撃波構造は最小限で、十分に滑らかな球殻が形成できたと報告

ひとつ注意がある。初期の構想論文には「約125 km/s」という数字が出てくるが、これは将来炉での想定速度であって、実験の実測値ではない。実測は50 km/s前後だ。この2つを混同した紹介を時々見かける。

2024年11月の米国物理学会(APS)DPP年会でも「PLX-BETHE」として続報が発表され、その共著者に HyperJet 所属の2名が入っている。少なくとも2024年後半までは、会社として実験に関与していた。

資金——ほぼ全部が税金である

時期種別金額出所
2015年ARPA-E ALPHA663万ドル米エネルギー省(LANL経由)
2017年シード(民間)200万ドルStrong Atomics
2018年DOE FES / SBIR15万ドル米エネルギー省
2019年DOE INFUSE非公表米エネルギー省
2020年ARPA-E SBIR Phase I25万ドル米エネルギー省
2020年ARPA-E BETHE462万ドル米エネルギー省(LANL経由)

累計額は資料によって約1,300万ドルとも約2,800万ドルとも書かれていて一致しないので、ここでは合計を出さない。確かなのは構造のほうだ——確認できる民間資金は2017年の200万ドル、それ1件きりである。2021年時点で2,000万ドルの調達を模索しているという記述があったが、その後成立したかは確認できなかった。

Commonwealth Fusion Systems が約30億ドル、Helion が約15億ドルを民間から集めている隣で、この会社はほぼ国の研究予算で走っている。ベンチャーというより、国立研究所のプロジェクトに技術を提供する小さな会社、と見たほうが実態に近い。

で、この会社はいま生きているのか

ここが本題だ。調べたが、確定できなかった。矛盾する証拠が並んでいる。

存続を示すもの

  • 公式サイトは2026年8月時点でアクセスできる
  • 2024年11月のAPS年会発表に、HyperJet所属者が共著者として入っている
  • D&B系のデータベースは「運営中」と記載

疑問を投げかけるもの

  • 公式サイトにニュース欄もプレスリリースもなく、日付のわかる更新が見当たらない
  • Crunchbase は「Closed(閉鎖)」「NearStar Fusion に買収された」と記載
  • 2025年9月、LANL が PLX の「商業化パートナー」を公募開始した(提案締切10月4日)。この文書に HyperJet への名指しの言及はない
  • 創業者の Witherspoon 氏は2021年に姉妹企業 NearStar Fusion を共同設立し、近年の発信はそちらに集中している。NearStar のニュースページに HyperJet への言及は一度も出てこない

ただし企業データベースの記載は、そのまま信じられない。PitchBook は「2020年12月に NearStar Fusion が買収」「設立2004年」と書いているが、NearStar 自身の設立が2021年なので、2020年に買収するのは時間的に不可能だ。自動生成データの精度の問題と考えるのが自然で、Crunchbase の「閉鎖」記載も同種の可能性がある。

LANL のパートナー公募も、解釈が割れる。既存パートナーが抜けたから探しているのかもしれないし、国立研究所の技術移転制度上、定期的に公募をかけているだけかもしれない。どちらとも断定できない。

結論としてはこう書くしかない。技術と実験は実在し、成果も査読論文になっている。会社としての独立した活動は、2025年以降の一次情報が見つからない。「潰れた」と書くのは根拠が足りず、「順調」と書くのも同じくらい根拠が足りない。

磁化標的核融合の中での位置づけ

企業・装置圧縮するもの(ライナー)駆動方式
HyperJet / PLXプラズマの殻36門のプラズマ砲
General Fusion液体金属の渦機械式ピストン
NearStar Fusion(圧縮せず高速の飛翔体を衝突させる)電磁レールガン
Fuse Energy金属ライナーパルスパワー(電磁駆動)

同じ「磁化標的核融合」でも、燃料の潰し方がまるで違う。HyperJet の独自性は「多数の独立したジェットを合体させて殻を作る」という一点にある。逆に言えば、36本のジェットを揃って中心に届かせるという難しさも、この方式に固有のものだ。

興味深いのは NearStar だ。同じ創業者が、圧縮方式をプラズマジェットからレールガンによる衝突へまるごと変えて新会社を作っている。技術的な後継というより、同じ人脈から生まれた別コンセプトと見るのが正確だろう。

この記事の書き方について

核融合スタートアップを追っていると、こういう会社に時々ぶつかる。技術は本物で、国立研究所と組んでいて、査読論文も出ている。それでも会社としては見えなくなっていく。公的助成が主な資金源だと、プログラムが終われば静かになるのは自然なことでもある。

企業データベースの「閉鎖」表示を鵜呑みにして「撤退した」と書くのは簡単だが、その情報自体が時系列すら合っていないことがある。逆に公式サイトが生きているからといって活動中とも限らない。当データベースで企業を収録するときに出典を必ず付けているのは、こういう場面で「何をもってそう言えるのか」を後から検証できるようにするためだ。

HyperJet Fusion については、2024年後半までの技術活動は確認でき、2025年以降は確認できない——いまはそこまでしか言えない。

出典: HyperJet Fusion 公式サイト(hyperjetfusion.com・2026年8月27日確認)/ARPA-E プロジェクトページ「Plasma Guns for Magnetized Fuel Targets for PJMIF」/ロスアラモス国立研究所 Plasma Liner Experiment (PLX) 公式ページ/arXiv:2401.11066「Formation and Study of a Spherical Plasma Liner for PJMIF」(2024年1月20日、のち Physics of Plasmas 掲載)/APS DPP 2024 発表「PLX-BETHE: Target Formation and Integrated Experiments for PJMIF」(2024年11月)/Los Alamos Reporter「LANL Seeks Commercialization Partners For Plasma Liner Experiment」(2025年9月20日)/Open Access Government(2019年10月9日)/SBIR.gov、Fusion Energy Base、Crunchbase、PitchBook、CB Insights。累計調達額・ジェット速度・企業の存続状況は出典により記載が食い違っており、本文中にその旨を明記しています。日本企業・研究機関との接点および日本語の独自報道は、確認できませんでした。

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