Research 2026/07/03
日本の核融合政策——国家戦略・予算・原型炉ロードマップを整理する
日本は2023年、世界に先駆けて核融合の国家戦略を策定した国のひとつとなった。2025年にはその戦略を初めて改定し、「2030年代の発電実証」という具体的な目標を掲げている。予算配分、研究開発体制、産業化支援はどこまで進んでいるのか。政策の現在地を一次資料ベースで整理する。
国家戦略の全体像
政府は2023年4月、「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定した。核融合を単なる研究テーマではなく新たな産業として位置づけ、ITER計画・BA活動、原型炉開発という従来の研究開発アプローチに加え、産業化を含む多面的な取り組みで実用化を加速させる方針を打ち出した点が特徴である。2025年6月4日には内閣府がこの戦略を初めて改定し、「世界に先駆けた2030年代の発電実証を目指す」と明記した。
予算の流れ(GX・補正予算・SBIR)
政府は核融合関連予算を近年拡充させてきた。令和7年度補正予算では、フュージョンエネルギーの発電実証に向けた研究開発・基盤整備の加速に係る経費として326億円が計上されたと報告されている。経済産業省もフュージョンエネルギー発電実証推進事業として200億円を補正予算に計上し、3年間の国庫債務負担行為で合計600億円規模の枠組みを設けた。このほか、ムーンショット型研究開発制度の目標10(フュージョンエネルギー)に令和5年度補正予算で内閣府から365億円が配分されるなど、複数の制度を通じた支援が積み上がってきている。
研究開発体制(QST・JT-60SA・大学)
研究開発の中核を担うのが量子科学技術研究開発機構(QST)である。茨城県那珂市の那珂核融合研究所には、日欧共同プロジェクトの超伝導トカマク型実験装置JT-60SAがあり、2023年秋に初プラズマ達成を目指して統合試験運転を再開、その後の運転で低誘導電場条件下でのトカマクプラズマ生成が学術誌に報告されている。QSTはITERサイズの原型炉による発電実証の前倒しに関する検討も進めており、京都大学・大阪大学・筑波大学など大学発のスタートアップや研究グループも技術基盤を支えている。
原型炉ロードマップと目標時期
文部科学省の原型炉開発ロードマップは当初、発電実現の時期を2050年頃としてきた。しかしITER計画の進捗や海外の野心的な目標を踏まえ、原型炉開発総合戦略タスクフォースでは技術的な前倒しの可能性が検討されている。核融合科学技術委員会では、トカマク型に加えヘリカル型・レーザー型など多様な方式への挑戦を促す方針も示されており、2030年代の発電実証という新たな目標に向けた工程表づくりが進行中である。実施主体のあり方やサイト選定を含む社会実装の検討タスクフォースも2025年9月に発足している。
スタートアップ支援と産業化(J-Fusion含む)
産業界の受け皿となっているのが、2024年3月に発足した一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)である。メーカー・商社・ゼネコンなど21社が発起企業となり設立され、会長には京都フュージョニアリング代表の小西哲之氏が就いた。国内外の産業動向調査、会員間の情報共有、技術標準化、安全規制を含む政策提言などを担い、政府と産業界をつなぐ窓口として機能している。中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)を通じた補助金も過去に核融合分野で活用されてきた。
海外との比較
米国は民間投資が牽引役であり、Commonwealth Fusion Systemsは累計調達額が約30億ドルに達し世界の民間核融合投資の相当部分を占める。Helion Energyやパルス磁気慣性核融合を手がけるPacific Fusionなど、大型調達が相次いでいる。一方、中国は国家主導で開発速度と資金投入を進めており、実験装置EASTは2025年1月に約1066秒のプラズマ維持を記録、超伝導磁石の完全国産化も報じられた。日本は国家戦略による目標設定と補正予算による集中投資、産業界の自主的な結集という三本柱で独自の道を歩んでいる。
課題と論点
政府は「2030年代の発電実証」を掲げるが、実施主体やサイト選定、規制の枠組みなど制度設計は検討途上であり、確定した詳細は明らかになっていない。予算規模も補正予算頼みの側面があり、単年度ごとの積み上げが続く点は今後の論点となりうる。原型炉ロードマップの前倒しが技術的にどこまで現実的か、国際協力とサプライチェーンの自国内確保をどう両立させるかも、業界内で議論が続いている。
出典: 内閣府「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」改定資料、日本経済新聞、原子力産業新聞、経済産業省令和7年度補正予算資料、文部科学省核融合科学技術委員会資料、QST発表、J-Fusion公式サイトをもとに編集部作成。