Research 2026/08/03
核融合サプライチェーン全景2026——2,349社データベースから見えた産業構造
核融合の記事はたいてい「炉を作る会社」の話で終わる。だが実際に産業を動かしているのは、その裏にいる真空、極低温、超電導、タングステン、電源、解析ソフト、そして建設と検査の会社たちだ。当データベースは公表された落札公告・契約リスト・会員名簿だけを積み上げ、収録企業が2,349社に達した。ここから見えてきた核融合産業の「形」を、数字で整理する。
1. 収録2,349社の地域分布——ただし読み方に注意が要る
| 地域 | 収録数 | 主な出典系統 |
|---|---|---|
| 欧州(EU・英国・スイス等) | 682社 | F4E年次契約リスト、英Fusion Cluster、UKAEA発注 |
| 日本 | 977社 | QST契約締結情報・ITER功労企業銘板、J-Fusion、NIFS納入 |
| 中国 | 297社 | ASIPP/SWIP中標公告、聚変産業連盟、上場企業開示 |
| 米国 | 237社 | FIA会員・サプライチェーン報告、DOE INFUSE/SBIR、US ITER |
| その他(韓国・インド・カナダ他) | 156社 | KAFAT、ITER-India、各国国内機関の調達 |
一見すると「欧州が最強で米国が意外に少ない」と読めてしまう。しかしこれは技術力や投資額の順位ではない。この分布が測っているのは、その国の核融合プロジェクトが調達情報をどれだけ公開しているかである。欧州が突出しているのは、F4E(欧州核融合エネルギー機構)がEUの調達規則に従って毎年「年次契約リスト」をPDFで全件公開しているからだ。契約相手の社名、内容、金額がそのまま載る。同じことをITER機構や米国の民間企業はしていない。
米国の数字が控えめなのは逆の理由だ。DOEの助成(INFUSE、SBIR、ARPA-E)とFIAの会員・サプライチェーン報告は公開されるが、CFSやHelionといった民間企業が誰から何を買っているかは、ほとんどが非公開である。資金規模で世界の過半を占める国の供給網が、統計上は最も見えにくい——これが2026年の実情だ。
2. 「炉を作る会社」は思っているより少ない
当データベースが個別ページを持つ詳細プロフィール263社のうち、炉そのものを開発している企業は77社、残る186社はサプライヤー・関連企業である。レジストリまで含めれば、炉開発1社の背後に十数社の供給企業が立っている計算になる。
この比率は産業として健全な兆候だ。2020年頃までの核融合は「スタートアップの数」で語られていたが、いまや語るべきは1社の炉が何社の受注を生むかである。中国のBEST(解説)が2025年秋から2026年にかけて真空容器2.09億元、支持部品1.8億元、真空室モジュール3億元超と上場企業に発注を割り振っていったプロセスは、その最も可視化された実例だった(A株核融合銘柄マップ)。
3. 供給網は「方式に依存しない層」と「する層」に分かれる
収録企業の役割を並べていくと、供給網がきれいに二層化していることが分かる。
方式非依存層——超高真空機器、極低温冷凍機とヘリウム、大型構造物の溶接・機械加工、高電圧電源とコンデンサ、放射線計測、遠隔保守ロボット、解析ソフトウェア。トカマクでもステラレータでもレーザーでも要る。ここに位置する企業は、どの方式が勝っても負けない。日本のジャイロトロン(解説)や真空機器メーカー、欧州のVAT・Air Liquide・Research Instruments、米国のCPI・Spellmanなどが該当する。
方式依存層——REBCO/Nb3Sn超電導線材(磁場閉じ込め専用)、大出力レーザーとレーザーガラス(慣性専用)、パルスパワーとコンデンサバンク(Zピンチ・磁気慣性専用)、タングステンダイバータ(定常磁場閉じ込め専用)。ここは賭けの世界で、方式のレースがそのまま自社の需要予測になる。HTS線材メーカーが磁場閉じ込め勢の進捗に一喜一憂し、光学メーカーがNIF系の商用化を注視するのはこのためだ。
投資家や事業会社が参入先を選ぶとき、この二層のどちらを狙うかで必要な確信度がまったく違う。前者は「核融合という産業が立ち上がるか」だけを見ればよく、後者は「どの方式が勝つか」まで当てなければならない。
4. 日本の位置——「部材では強い、装置では見えない」
日本の977社は、ITER調達を通じて積み上がった層が厚い。QSTの「ITER功労企業」銘板と連携企業紹介に名を連ねる企業群——超電導撚線、ダイバータ用銅合金、ジャイロトロン、耐放射線サーボモータ、セラミック絶縁管、極低温絶縁材——は、いずれも世界で数社しか作れない部材である。低温工学・超電導学会の賛助会員層まで含めると、極低温・超電導のサプライヤー密度は世界でも屈指だ。
一方で弱いのが「装置一式を売る層」である。中国では国机重装や合鍛智能が真空容器モジュールを丸ごと受注し、欧州ではSIMICやWalter Tostoがコイルとセクターを組み上げる。日本にも三菱重工・東芝ESS・日立といったITER実績のある重工はあるが、民間核融合企業への装置一式の供給という文脈では、まだ受注の可視例が少ない。部品で強く、システムで見えない——これが数字が示す日本の課題である。
5. データベースを作って分かった「見えないところ」
最後に、この2,349社が捉えきれていない領域を正直に挙げておく。データの価値は、その限界を明示できるかで決まる。
第一に、米国民間企業の二次・三次サプライヤー。CFSのARC建設やHelionの発電所に部材を納めている中小企業の多くは、守秘義務のため公開情報に現れない。第二に、中国の非上場サプライヤー。中標公告に出るのは主に上場企業と国有企業で、その下請け層は見えない。第三に、ソフトウェア・人材・金融の周辺サービス。FIA会員には法律事務所や保険仲介、施設不動産まで含まれており、産業の成熟とともにこの層が急速に厚くなっているが、体系的な名簿はまだどこにもない。
逆に言えば、これらは今後データベースを深める余地そのものである。当データベースは公表された落札公告・契約リスト・会員名簿という「一次に近い出典」だけを117系統積み上げて構成しており、全エントリに出典を明記している。研究機関169件、投資家180件、素材・サプライヤー100件、プログラム・大型装置61件の付随データベースと合わせ、データベースで地域・方式・役割から横断的に検索できる。
核融合はいま、「実験装置の産業」から「発注が飛び交う産業」に変わりつつある。誰が何を作れるかを把握しているかどうかが、事業機会の差になる時期に入った。
出典: 当データベース収録の2,349社および出典117系統(F4E年次契約リスト2020〜2024、QST契約締結情報・ITER功労企業銘板、英Fusion Cluster会員名簿、FIA会員・サプライチェーン報告、DOE INFUSE/SBIR/ARPA-E採択、ITERビジネスフォーラムIBF/25参加者名簿、J-Fusion会員名簿、低温工学・超電導学会賛助会員、聚変産業連盟名簿、ASIPP/SWIP中標公告、KAFAT会員名簿、ITER-India製造パートナー ほか)をもとに編集部作成。集計は2026年8月3日時点。