Research 2026/07/30
ステラレータ三強比較——Type One・Thea・Proxima、「作れるステラレータ」への三つの道
W7-Xが物理性能を証明して以来、ステラレータは「定常運転に最も向くが、最も作りにくい」方式として商用化レースの主役級に浮上した。この1年で米欧の三強——Type One Energy、Thea Energy、Proxima Fusion——が相次いで大型資金と実証拠点を確保し、レースの構図がはっきりしてきた。三社は同じ方式を選びながら、「作りにくさ」の解き方がまったく違う。本稿はその戦略の分岐点を整理する。
前提:ステラレータの魅力と呪い
ステラレータ(解説)はコイルだけでねじれた磁場をつくるため、トカマクのようなプラズマ電流の維持が不要で、ディスラプションのリスクが小さく定常運転に向く。発電所として見たときの筋の良さは業界でも広く認められている。呪いは製造にある。W7-Xの3D成形コイルは設計から完成まで四半世紀を要し、ミリ以下の精度要求が工期とコストを支配した。つまりステラレータの商用化とは、物理の問題である以上に製造性の問題だ。三強の戦略は、この呪いをどこで解くかで分かれる。
比較表:三社の現在地
| Type One Energy 🇺🇸 | Thea Energy 🇺🇸 | Proxima Fusion 🇩🇪 | |
|---|---|---|---|
| 出自 | ウィスコンシン大マディソン校・ORNL系(2019年) | PPPL(プリンストン)系(2022年) | マックス・プランクIPP=W7-X直系(2023年) |
| コイル戦略 | 非平面HTSコイル+大規模最適化設計 | 平面HTSコイルの配列+ソフトウェア磁場成形 | W7-X型最適化コイル+HTSで高磁場化 |
| 次の実機 | Infinity One(工学実証・2029年ごろ稼働目標) | Eos(D-D中性子源・三重積10²¹目標) | Stellaris設計→実証機Alpha(2031年ごろ目標) |
| 商用機構想 | Infinity Two(TVAと400MWe級・2030年代半ば) | Helios(D-T・DOE設計認証を8社で初取得) | 2030年代の商用ステラレータ |
| 資金(概算) | 累計1.6億ドル超+DOEマイルストーン | 私募約1.3億ドル+ARPA-E 2,000万ドル | 4.11億ユーロ調達(欧州最大・評価額24億ユーロ) |
| 象徴的パートナー | TVA(石炭火力跡地)、英コンソーシアム | 出光興産、NVIDIA、ORNL | IPP、XTX/East X Ventures、EU圏の公的支援 |
Type One——「立地と電力会社」から固める実装先行型
Type One Energyの勝ち筋は、技術より先に「発電所になる条件」を押さえたことだ。テネシー峡谷開発公社(TVA)の旧Bull Run石炭火力跡地に工学実証機Infinity Oneを建設し、TVAとは400MWe級の商用機Infinity Twoの共同開発協定まで拡大。査読論文でパイロットプラントの物理基盤を公開し、英国ではTokamak Energy・AECOMとコンソーシアムも組んだ。電力会社・送電網・立地という「最後に必ず詰まる部分」を最初に確保する戦略は、方式を問わず業界でも独特だ。リスクはコイルそのものの製造性で、非平面HTSコイルの量産という本丸の難題はまだこれからにある。
Thea——「コイルを平らにする」製造性特化型
Thea Energyは呪いの根本、つまりコイル形状そのものを疑った。ねじれたコイルを平面HTS磁石の配列に置き換え、磁場のねじれはソフトウェア制御でつくる。「Canis」3×3アレイやフルスケール平面コイルで実証を積み、ARPA-Eから磁石量産に2,000万ドルを獲得——出資も含め、同社への評価は一貫して製造性のブレークスルーに向いている。中性子源Eosで先に収益と実績をつくり、商用炉HeliosはDOEマイルストーン8社で最初に設計認証を得た。リスクは物理側に残る。平面コイルの合成磁場がW7-X級の閉じ込め品質を実機で出せるかは、Eosでの統合実証を待つ必要がある。
Proxima——「W7-Xの正統後継」性能先行型
Proxima FusionはW7-Xを生んだIPPからのスピンアウトで、実証済みの物理に最も近い場所にいる。スパコンによる磁場最適化とHTS磁石で「高性能かつ現実的に作れる」設計(Stellaris)を公表し、2026年7月には4.11億ユーロという欧州最大の調達を達成、評価額は24億ユーロに達した。三社で最も資金が厚く、欧州の公的研究インフラを使える立場でもある。一方でコイルは依然として複雑な3D形状であり、W7-Xを苦しめた製造の呪いを「設計最適化とHTSでどこまで軽くできるか」が問われる。三社の中では、物理の確実性と製造の難度をともに最も高く積んだ構成といえる。
視点:勝敗を分ける3つの変数
第一にコイル量産の歩留まり。Theaは形状の単純化、Type OneとProximaは設計最適化と製造技術でこれに挑む。ここが崩れた社から脱落する。第二に中間収益の有無。TheaのEos(中性子・RI)とType Oneの英国展開のように、発電前にキャッシュと実績をつくる装置を持つかどうかは、2030年代まで続く資金調達の持久力に直結する。第三に系統接続と立地。この点でTVAを押さえたType Oneが先行し、欧州の政策支援を背負うProximaが続く。現時点で三社は「実装のType One、製造のThea、性能と資本のProxima」と要約できるが、興味深いのは互いの強みが互いの弱点だということだ。ステラレータが商用化に届くかは、三つの解き方のどれか一つでも呪いを解ければよい——方式全体としては、これは分散投資が効いた健全なレースである。
出典: 各社公式発表・公式サイト、TechCrunch、World Nuclear News、ANS Nuclear Newswire、Journal of Plasma Physics特集号(Type One)、arXiv(Thea "Canis")、GlobeNewswire、FIA資料をもとに編集部作成。数値は各出典に記載の概算値で、最新の状況と異なる場合があります。