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技術解説

技術解説 2026/07/17

核融合炉の材料と中性子損傷——14MeV中性子が炉を壊す仕組み

核融合のニュースでは、プラズマ温度やQ値が注目されやすい。しかし発電所として長く動かすには、炉を構成する材料が強い熱と中性子に耐えなければならない。D-T核融合で生まれる約14.1MeVの高速中性子は、金属の原子をはじき出し、別の元素へ変え、内部にヘリウムや水素をつくる。材料は、核融合を「一度起こす」段階から「設備として使う」段階へ進む際の重要な評価軸だ。

なぜ材料が核融合の工学課題になるのか

D-T反応で生じた中性子は電荷を持たないため、磁場に閉じ込められず炉壁へ飛び出す。これはブランケットで熱を回収し、トリチウムを増殖するために必要な一方、第一壁、ブランケット構造材、ダイバータなどを継続的に傷める。プラズマに近い表面は熱・粒子負荷を受け、その背後の構造材は中性子照射と機械荷重を受ける。単一の「最強材料」を選べば済む問題ではなく、部位ごとに異なる役割と寿命を設計する必要がある。

14MeV中性子が材料に起こす3つの変化

第一ははじき出し損傷だ。中性子が結晶中の原子へエネルギーを渡すと、原子が本来の位置から動き、空孔や格子間原子などの欠陥が生じる。損傷の目安には「1原子あたりの平均はじき出し回数」を表す dpa(displacements per atom)が使われる。ただし同じdpaでも、中性子のエネルギー分布や照射温度、材料組成によって欠陥の残り方は異なるため、dpaだけで寿命を決めることはできない。

第二は核変換である。中性子との反応で材料中に別の元素が生まれ、組成や性質が変わる。第三は、核変換に伴うヘリウム・水素の生成だ。これらが材料内部の欠陥や粒界に集まると、膨れ、脆化、熱伝導の低下、トリチウムの保持などに関わる。核分裂炉やイオン照射の知見は重要だが、核融合炉の中性子スペクトルを完全に再現するものではない。

候補材料——タングステンと低放射化フェライト鋼

プラズマに面する材料では、融点が高く、損耗しにくいタングステンが主要候補である。ITERのダイバータにも採用され、将来炉の第一壁やダイバータでも研究が進む。一方で、照射による欠陥、再結晶、脆化、水素同位体の保持など、実環境での寿命評価が欠かせない。「高融点だから壊れない」という材料ではない。

ブランケットなどの構造には、放射化しにくいよう成分を調整した低放射化フェライト/マルテンサイト鋼(RAFM鋼)が有力候補だ。日本のF82H、欧州のEUROFER97が代表例で、既存の高クロム耐熱鋼に近い製造基盤を活かしながら、長寿命の放射性核種を生じやすい元素を抑えている。ただし「低放射化」は「放射化しない」という意味ではなく、照射後の管理、保守、交換、廃棄を含めた設計思想である。

「材料データが足りない」という問題

将来炉の認証や保守計画には、材料がどの温度・照射量で、どの程度まで強度や延性を保つかというデータベースが必要になる。現状は、核分裂炉での中性子照射、イオン照射、計算モデルなどを組み合わせて評価している。これらは候補材の選別や損傷機構の理解に役立つ一方、14MeV級の中性子によるはじき出しと核変換を同時に長期間再現するには限界がある。

そのため欧州では、重陽子ビームを液体リチウムへ当て、核融合炉に近い中性子環境で材料試験を行うIFMIF-DONES計画がスペイン・グラナダで進む。EUROfusionはDONESをDEMOへ向けた材料試験施設としてロードマップに位置づけている。公式発表では建設フェーズへの移行が進められているが、完成・運転時期は今後の工程や調達に左右されるため、現時点で確定した商用炉スケジュールと同一視はできない。

日本のLIPAcとA-FNS

青森県六ヶ所村では、日欧の「幅広いアプローチ(BA)」活動としてIFMIF/EVEDAが進められ、LIPAc(IFMIF原型加速器)で加速器技術の工学実証が続く。LIPAcはDONESそのものではなく、大電流重陽子加速器を成立させるためのプロトタイプである。

QSTは同じく六ヶ所で、重陽子ビームと液体リチウムターゲットを用いるA-FNS(先進核融合中性子源)の工学設計を進めている。2026年1月のQST資料でも、中性子工学とリチウムターゲット診断を含む研究開発が継続している。日本にとって材料照射施設は研究設備であると同時に、加速器、液体金属、遠隔保守、照射後試験を束ねる産業基盤でもある。

炉の設計は材料問題をどう扱うか

材料の課題は、すべての核融合方式に同じ形で現れるわけではない。中性子の多いD-T燃料か先進燃料か、連続運転かパルス運転か、固体壁か液体壁か、交換周期をどこに置くかで照射条件は変わる。遮蔽を厚くすれば超伝導磁石を守りやすい反面、装置は大型化する。交換可能なモジュールにすれば稼働率と保守費が論点になる。材料の「解決」を主張するより、想定照射量、寿命、交換方法、データの根拠を比較する方が、企業や炉設計を評価するうえで有効だ。

事業者・投資家が見るべきポイント

材料開発は、素材メーカーだけの市場ではない。高純度タングステン、特殊鋼、接合・被覆、非破壊検査、照射試験、遠隔保守、シミュレーション、規格・認証まで長いサプライチェーンを形成する。日本にはF82H、精密加工、計測、加速器、核融合サプライチェーンの蓄積がある。実用化時期を読む際は、プラズマ性能だけでなく、材料データが設計許容値と交換計画へ落とし込まれているかを見る必要がある。

一次情報: QST「用語解説(低放射化フェライト鋼)」QST「第4回A-FNS研究会」IFMIF-DONES公式サイトEUROfusion Roadmap、IAEAの核融合材料関連公開資料をもとに編集部作成。材料特性や施設計画は研究・設計の進展により更新されます。

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